秋の夜長 第十二夜「後悔」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
前の職場の同僚だった東高座くんにストーキングされて、なんやかんや三年くらい付きまとわれたあげく、車で拉致されて山中に置いていかれ、熊に襲われて私は死んでしまう。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
熊の姿を確認したとき、息を殺して必死にやり過ごそうとはした。でも、多分だけど、付けていた香水のせいで見つかってしまい、熊がハーイみたいに挙手した次の瞬間に私の記憶は飛ぶ。顔の左半分を持っていかれる。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
気が付くと、真っ白な奥行きも何も感じられない空間にいて、あ、私死んだんだな、と思う。あぁ、もっとやりたいことあったのにな、とか、あぁ、あれをやり残しちゃったな、とか思うけれど、それが何かを具体的に思い出せない。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
とりあえず立ち上がり、歩いてみる。どっちに進めば良いかも判らないけれど、前へ。でも私が向いている方向が前ってだけ。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
しばらくそうして歩いていると、薄ぼんやりとした黒い点が見えてくる。何だろう? 歩を早める。人? 私は近づく。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
銀縁メガネをかけた長身長髪の男の人。年齢は、どうだろう? 20代でも30代でも通用しそう。すっごく若い40代ってのギリギリあるかもしれない。そういう感じ。脇に黒いファイルを抱えている。そして無表情。でもまぁまぁカッコいい。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「ようこそ、“こちら側”へー。私はぁ、レンと申しますぅ」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
え? なにこの語尾を伸ばす感じ。え、ちょっと、なんか残念な感じ。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「あの、私は死んだのですか」
「そうですぅ」
「じゃあ、ここは天国みたいなところ? “こちら側”ってなんですか」
「ここはぁ、天国ではありませんよぅ。言うなればぁ、狭間の世界みたいなものですぅ。あなたはぁ、一旦ここで保留になりますぅ」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「保留?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「そうですぅ。あなたはぁ、やり残してしまったことがあるのでぇ、その清算をしないとぉ、“こちら側”へは来れないのですぅ」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「はぁ」やり残したことって何だろう。っていうか、この喋り方ムカつくな。腹立つ役をやっているときのムロツヨシ的なウザさがある。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「何をやり残して来たか、判りますかぁ?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「えーっと……」私は考える。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
やり残したことって言われても、そりゃ八十歳くらいまで生きて寿命で死んだわけじゃないから、言うなれば人生丸々やり残したみたいなもんだ。会いたい人だっていたし、やりたいことだってあった。あったはずなのだ。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
でも、なぜか思い出せない。というか私、結構いろいろ忘れている。アレ? 私ってだれだっけ?
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「思い出しましたかぁ?」
「いえ、その……」えー、どうしよう。全然どころかなにも思い出せない。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
一番最近の記憶……、ってそうだ私は熊に殺されたのだ。あ、そうか。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
「あの私、殺されたときに頭を半分吹き飛ばされたので、それで記憶が無いんだと思います」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
「そうですかぁ。でも大〜丈〜夫ぅ〜。ここに来れば大抵のことは思い出せますぅ。こちらとしてもぉ、あなたに清算をしてもらわないとぉ、この先にご案内できませんのでぇ」
「でも、ちょっとダメみたいです。思い出せません」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
「仕方ないですねぇ。特別ですよぉ?」とレンは黒いファイルを開き、何語か判らない言葉をブツブツ言い出す。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
「ドゥエナモッサュフゴッチゥンショ!!!!」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
「えっ!」いきなり叫ぶからビックリした。「何ですか?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
「あなたがやり残したことはぁ〜!」と私はデコピンされる。
「痛ったい……。あ、アレ返してない」
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「そうですぅ。あなたには未返却のレンタルビデオがありますぅ」
「えぇー。そんなこと?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
「そんなことって。借りたものはきちんと返さないとダメでしょうよ」
「でも……。そんなことで私、先に進めないの?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
「だから、そんなこと言われたって。規定でそうなってるんだから」
「あれ、普通に喋ってません?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) November 14, 2015
「いやいやぁ! あなたはぁ、レンタルビデオを返さないとぉ、いけませぇん」
「ワザとなの?」
「正確にはレンタルDVDですがぁ」
「腹立つな」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
私がやり残したこと……。レンタルビデオ、いやレンタルDVDの返却。マジかー。普通こういうのってさ、大切な人に感謝の言葉を言いに行くとかさ、なんかそういうのじゃないの? 何? レンタルビデオって。そんなもんもう死んでるんだから関係ないじゃん。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「重要なことですよぉ。レンタルビデオはですねぇ、販売用のものと違ってレンタル許諾料が上乗せされているので、とても高価なんです」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「いや、知らないし。それに、もう私死んでいるんでしょう? どうやって返却すれば良いの? ちょっとだけ生き返れるとか?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「いえ。そんなことはできません」
「じゃあ、どうやって?」
「料金をお支払い頂ければ結構ですぅ。あとはこちらで手配しますぅ」
「どゆこと?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「こちらで、あなたの家族や友達の無意識に働きかけてぇ、返却されるようにしますぅ。あなたはお金を払うだけで良いのですぅ」
「お金って……」と私はコートのポケットに手を入れる。あ、財布がある。「わかりました。で、幾らなんですか」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「二万八千円ですぅ」
「高っ。っていうか、その値段の根拠なんなの?」
「総合的な判断ですぅ」
「釈然としないなー」と財布を開けるけれど、一万七千円しかない。「あの、持ち合わせがないんですけど」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「たった二万八千円がありませんかぁ? いい歳してぇ?」
「いやぁ〜」ホント腹立つ。「あの、ATMとかないんですか?」
「そんなものはありませんねぇ」
「じゃあ、どうすれば?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「仕方がありませぇん。私としてもぉ、あまりオススメはしないんですけれどぉ……」
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レンは無表情のまま固まっている。何?
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「え、なんですか?」
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「…………三つの試練をッ! 受けてもらいますッ!」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「溜めたな、オイ」って、三つの試練? なんじゃそりゃ。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「では。準備をしますのでぇ」とレンはまた黒いファイルを開きブツブツと始める。
「今度はなに?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「フェブゥゥゥゥラリィロォンリィィサーーーーーッドネェェェェッス!!!!」
「おおおおおおお」
体が浮き上がる。周りの景色は相変わらず白一色で遠近感がないけれど、無重力状態みたいな感じになる。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「これ飛んでるの?」
「いえ。落ちていまぁす」
「ええええ!?」
「大〜丈〜夫ぅ〜。下に着く瞬間に、フゥワとなります」
「本当にぃ!?」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
しばらくそのまま落ち続け、フゥワとなる。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「では、こちらの扉の中へ」白い壁に大きな黒い扉がある。「この先が、あなたの三つの試練です」
「私一人でいくの?」
「あなたの試練ですから」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
扉を開ける。中は暗い。遠くにろうそくの光のようなオレンジ色の明かりが見える。恐る恐る進んでいく。一体何が待ち受けているのだろう。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「え?」
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その先にあったのは五十メートルくらいの橋だ。橋の先にまた扉が見える。
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この橋を渡るのが私の試練ということなのだろうか。なんだ簡単じゃないか、と思ったのも束の間、私は絶句する。
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その橋には、無数の人間の顔が埋まっている。それに加え、さっきまで履いていたいはずの私の靴が無い。裸足だ。
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「ねえ! これはどういうこと?」私は叫ぶ。けれど、レンはいないし誰からも返事は無い。このまま進むしかなさそうだ。
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近くで見ると、その顔たちは全部幼い子供たちの顔だった。男の子と女の子と、区別がつかない中性的な子。そのどれもが、じっと目を閉じている。まるで眠っているみたいに。
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私はゆっくりと、歩を進める。なるべく痛くないように、体重の乗せ方とかに気を遣う。
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「ごめんね。ごめんね」
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私がその子たちの顔を踏んづけるたびに、悲鳴が上がる。絶叫する子もいれば、じっと耐えている子もいる。いたたまれなくなって私はスピードを上げる。とにかくこの橋を渡りきらなければ。
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私は走る。悲鳴、鳴き声、呻き声がこだまする。なかには、私の足に噛み付いてくる子もいる。痛いけれど私は怒れない。ごめんね、ごめんね、と私は進むしか無い。
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その橋を渡りきり、次のドアに手を伸ばしたところで、私は自分が泣いていることに気付く。
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まず、泣いているという自分の状態を確認して、少しあとに、なんで泣いているのかを理解する。
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あの子たちの顔を踏んでしまったことだけじゃない。私にはなぜか、あの子たちが、もしかしたら私が生んでいたかもしれない、私の子供になったかもしれない、そういう可能性たちだと悟る。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
そして、そう思うと涙が止まらない。ごめんねという言葉を幾ら重ねても足りない。どうして、私はこんな目にあわないといけないのだろう。
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私はこぼれ落ちる涙を拭いもせず、次の扉を開ける。
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その先には、真っ黒な大きな岩があった。その手前には金槌と鑿(のみ)。そして、頭の中に声が響く。レンの声だ。鑿
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「その岩を削ってぇ、“あるべき形”にしてくださぁい」
「そんなこと言われたって、私、彫刻なんてやったことないよ!」
「大丈夫ですぅ。ここでは、経験とか技術とか関係ありませんからぁ。ただ心に浮かぶものをイメージしてぇ、手を動かしてくださぁい」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
意味が判らないし、何をどうすればいいのか、何を作れば良いのかも判らない。けれど、私は金槌を手にとり、その岩に鑿を立てる。コンッ!
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「痛っ」え?
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金槌を打った瞬間に、私の体に痛みが走る。もう一度試してみる。コンッ!痛っ!え?何これ?こんなんじゃ彫れないよ。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
と、思うけれど私は無心になって岩を削る。強烈な痛みが体を通り抜ける。本当に鑿で体を削られているような痛みだ。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
でも、私は耐える。とにかく、先に進まなくては。それに、さっきのあの子たちも痛かったはずだ。私の子供たち。その可能性。そう思いながら私は痛みに耐え、岩を削り、像を造る。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
出来上がったのは、母親が赤ちゃんを抱きかかえているような抽象的な像。昔、似たようなものをどこかで見たことあるような気がする。母子像だ。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
その像が出来上がると、部屋の奥に黒い扉が現れて開く。次がいよいよ最後の試練だ。でも、私の体はボロボロで、怪我をしたり血が出ているわけではないのだけれど、痛みのせいでほとんど感覚がない。立っていることもままならない。でも、私は這って進む。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
どれくらい時間がかかったか判らないけれど、私は次の部屋に入る。そこには小さな木の机があって、見覚のあるものだけれど、思い出せない。
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その机を支えにしてなんとか立ち上がると、そこには一冊のノートが置かれていた。
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「最後の試練は、それを読むことですぅ」頭の中にレンの声が響く。これを読む? 今までのに比べると随分と楽なだな、と私は思う。「一字一句見逃さずに、ちゃんと読むことが条件ですのでぇ。くれぐれも読み飛ばしたりしないようにぃ」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
ページを捲る。手書きの文字で文章が綴られている。日付があるから、これは日記なのかな?
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地面に座り込んで、言われた通り一字一句慎重に読む。どうやら育児日記のようだ。子供の名前は塗りつぶされたみたいに真っ黒になっていて読めない。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
どうやら、病弱で手のかかる子供のようだ。三歳のときに、夜中に高熱を出して救急車で運ばれる。五歳のときに扁桃腺の手術をする。七歳のときに盲腸の手術をする。アレ?と思うけれど読み進める。やけに私と共通点が多い。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
合間に七五三やら小学校の入学式のエピソードもある。「入場のときに隣りの男の子と手をつなぎたくなかった」って、これ完全に私だ。これを読んで、そのときの記憶が鮮明に思い出される。確か、広柳くんだった。なんか不潔っぽい子でイヤだったのだ。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
その日記は私が中学生になるまで続いていて、ある日ぷつんと切れていた。理由は思い当たる。けれど、お母さんが日記を付けていたなんて全然知らなかった。そんなことする人だとも思っていなかった。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
日記を読み終え、それを机の上にそっと置く。私は泣く。嬉しくて泣く。そして悔しくて泣く。お母さんが確かに私を愛していてくれたことが判って嬉しい。そして、感謝の気持ちを伝えきれないまま、死んでしまうことが悲しい。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
涙を拭い、顔を上げるとレンが立っている。
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「お疲れ様でしたぁ。これで試練は終わりですぅ。手続きはすべて完了しましたぁ」
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「あの、もう戻れないんですか」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「それは無理ですね。あなたには、“こちら側”に来てもらいます」
「そうですか」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
レンが私を抱きかかえる。目を閉じるとリラックスしてくる。花のような香りが漂って来て、全身の力が抜ける。フゥワとなる。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
目が覚めると、私は自分のベッドに寝ていて、ひどく汗をかいていた。半分寝ぼけたまま、シャワーを浴びる。なにかイヤな夢を見ていたようだけれど、思い出せない。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
シャワーを終えて、部屋の電気をつける。改めて一人暮らしのワンルームを眺める。特に変わった様子は無い。というか、私は何を確認したいんだっけか。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
ふと気になって、ソファの背もたれと壁の間を覗く。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「あっ」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
そこには、一枚のレンタルDVDがあった。結構前に借りてまだ観ていないものだ。返却日を確認すると、もう一週間も過ぎている。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
面倒だけれど、返さなければいけない。明日になればさらに延長料金がかかってしまう。ドライヤーで髪を乾かして、私はツタヤへ向かう。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
「こんなの借りたっけなぁ?」とレシートに書かれたタイトルを観て思う。『バトルフィールド・アース』だ。結局観なかった。でも不思議と惜しいという気持ちはない。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
レジで返却する。延長料金はなんと2240円! えぇー! と思うけれど、なーに安い安い。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 11月 14
おわり。
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秋の夜長: (What's the Story)Autumnal Nights? (ライトスタッフ!)
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