秋の夜長 第六夜「ライク ア ローリングストーン」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
中学時代の同級生が集まった同窓会は、予想よりも大いに盛り上がった。三年の時に担任だった室川先生も来ていて、当時三十代半ばだった先生がもう定年間近で、他の同級生も結婚していたり、既に子供がいたりと、否応にも時の流れを感じさせる。あれから十五年も経っているのだ。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
盛況のうちに終わった一次会から、幹事の久我澤がみんなを誘って二次会へ。先生は、退席されたが、久しぶりに会ったという以上の懐かしみを感じていた俺たちは、そこでも収まりきらずに三次会へ。そして、最初の四分の一が、四次会まで行った。俺も楽しくて、酒を飲み過ぎた。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
気が付くと、もう終電の時間だ。それまで残っていた同級生たちも帰り始め、飲み過ぎて暴れすぎた幹事の久我澤と俺、そして、名前が思い出せない同級生であろう男と、三人残された。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「久我澤くん、起きないね」その男が言う。
「あぁ。こいつ、人の三倍は飲んで暴れてたからな。まったく、歩けなくなるまで飲むんじゃねーよ」俺は、地面に寝転がっている久我澤に向かって言う。当然、こいつには聞こえていないだろう。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「遠藤くん、家近くなの?」
「あぁ、俺はここから歩いてすぐのところだよ」俺は名前を呼ばれて、ちょっと緊張する。こいつ、確かに顔は憶えているような気がしないでもないのだけれど、名前が全然思い出せない。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「どうしようか。みんな帰っちゃったし、久我澤くん、ここに置いておくことも出来ないし」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「どうしよーかね」意識さえあれば適当にタクシーに乗せることも出来るだろうが、こいつは完全にお休み中だ。「メンドクセーけど、家に連れて帰るわ」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「僕も手伝うよ」
「あぁ、助かる」と、言ったものの、いっこうに名前を思い出せそうにも無い。はじめの頃のならまだしも、四次会が終わった頃に、名前を聞くのも、気まずい。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
二人で、久我澤の両脇を持って、俺の家まで歩いた。俺はなんで、コイツの名前、憶えてないんだろう。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
家に着く。鍵を開けて、二人でリビングに、久我澤を運ぶ。
閉め切った部屋は、蒸し暑い。俺はすぐさまエアコンのスイッチを入れる。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「悪いな」俺は言った。「しばらく寝かせて、起きたら適当に帰らせるよ。お前は、帰れる?」
「うん。僕は大丈夫」
「そっか、ありがとな。えっと……」俺は必死に脳内検索を続けた。そんな難しい名前じゃなかったはず。佐藤とか田中とか、ありふれている名字。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「小林だよ。小林隼人」
「あぁ、そっか。そうだったな。悪い」
「いや、良いんだ。僕、中三の時は、ほとんど学校行ってなかったし」
「あぁ、そうだっけ」そういえば、不登校のヤツがいた。思い出した。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「遠藤くん、ここに一人暮らし?」
「そうだけど、なんで?」
「いや、広い部屋に住んでいるんだね。羨ましい」
「あぁ、まぁ、なんて言うか、最近までは、二人暮らしだった」
「あ、なんか、ごめん」
「いや、良いよ。別に結婚してたわけじゃないし。ただの同棲」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「いや、そいうつもりじゃなかったんだ」
「だから良いって」
「うん」小林は、壁際に座り込む。「ごめんついでに、ちょっと僕も休ませてもらっても良いかな?」
「良いけど、大丈夫か? 水いる?」
「大丈夫、大丈夫」
「ちょっと待ってろ」俺は台所でグラスに水を注ぐ。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
部屋からは、蒸し暑さが消えた。ドライに設定していあるエアコンは、古さのせいか、侘しい音を発していた。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
彼女が出て行ったのは、俺のせいだった。つまるところ俺は、誰かと一緒に生活をすることが出来なかったのだ。初めて一人暮らしをしてからずっと、『自分一人を食わしていれば、あとは自由』という開放感をずっと味わっていた。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
このご時世、炊事洗濯なんて、ちょっとの金があればなんとでもなってしまう。もともと綺麗好きだから、掃除も苦にならない。誰かに気を遣ったり、誰かのことを思いやったり。外では出来る。けれど、二十四時間そんなことは続けられなかった。他人が家の中にいるのが苦痛だった。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
気配、音。全ての生活が、他人がいる事で乱されていく。そんな感じに耐えられなくなった。いや、俺は耐えていたのだ。ただ、彼女の方が『俺がそう感じていること』に、耐えられなかったようだ。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「ほら」俺は小林に、水を渡す。彼は、ありがとう、と言って、それを一口飲んだ。
「今日は楽しかった」小林が言った。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「そうだな」ふと、俺は不登校だったヤツが同窓会に来ても、そんな風に感じるのか? と思った。今日集まったメンバーは大体が三年の時のクラスの奴らだ。「小林ってさ、なんで学校に来なかったの?」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「それは……」彼は目を伏せて、その後、久我澤を見た。「遠藤くんは、三年で初めて一緒のクラスになったから、知らないと思うけど、僕と久我澤くんは、一年生の頃から同じクラスだったんだ」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「あぁ、そうだっけ」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「うん。それで、ずっといじめられてた」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「え?」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「もちろん、今となっては、悪気が無かったことくらいわかるよ。ただふざけていたっていうか、からかわれていただけだって。でも、当時は、学校に行くのが凄く嫌だった」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
俺は、小林の告白に、何も言えずにいた。彼は久我澤にやっていた目を俺の方に戻すと、なんだか曖昧に笑った。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「不登校になってから、一年以上、部屋から出なかったよ。引きこもりってヤツだね。で、中学浪人して、県外の高校に行ったんだ」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「毎日毎日、部屋でずっと一人でいると、なぜだか心がすっとしたんだ。誰とも会わなくて良い、誰とも話さなくて良いってのは、すごく贅沢な時間だなって、本当に思っていたよ」
「あぁ」その気持ちは、俺もなんとなくは、わかる。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「でも同時に、なんて僕がこんな目にって、ずっと彼を恨んでいたんだ。部屋の中で独りでいると、妄想も際限ないからさ、彼のこと、何度も殺したよ」
まぁ、そうだろうな、と俺は思った。久我澤は、死んだように眠っている。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「実はさ……」小林は、飲み終えたグラスをコツン、と床に置いた。「今日も、殺そうと思ったんだよね」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「はぁ?」俺は笑う。小林も俺に、またあの曖昧な笑顔を返した。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「ヒ素入りビールも、時限爆弾も、用意していないけどね。でもね、ほら……」小林は、笑顔のまま、ポケットから小さなナイフを出した。
「そんなんで人が殺せるかよ」俺は精一杯、笑顔で言った。場の空気をジョークにしようと。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「そうだよね」小林は、すぐにポケットにそれをしまう。そしてクスっと笑った後、短く息を吐いた。「朝だから、静かだね。この部屋、テレビ無いの?」
「無い。彼女が持って行った」正確には、元彼女だが。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「あのパソコンは?」
「あぁ、あれは俺が昔買ったヤツだけど、ほとんど彼女が使ってたな。正直、ああいうのはよくわからん」
「ネットは繋がってるの?」
「一応」
「ちょっと触っても良い?」
「あぁ」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
小林は立ち上がって、リビングの隅にあるパソコンを開く。しばらくの間、なにやらカチャカチャとやっていた。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「音楽でも聴こうよ」パソコンからは、外国のポップスやらロックが流れ始めた。
「詳しいんだな」俺は言った。
「このくらい、みんな出来るよ」
「お前って、仕事は今何やってるの?」
「パソコン関係」
「詳しいんじゃんか」
「まあね」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
陽気な曲や、切ない曲、激しい曲、コミカルな曲。色んな音楽が流れていた。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「これって、何?」俺はきく。
「ネットラジオ。外国のラジオだよ。古い音楽を流す局みたいだね」小林は、再び壁際に座る。
「へぇ、そうか」俺は目を閉じる。酒は抜けてきたが、代わりに眠気が増す。「なぁ、どうして、殺さなかった?」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
彼は、久我澤を見つめていた。
「どうしてかな。どうでも良いじゃんって、思ったのかも」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「どうでも良い?」
「今でも、彼のことは赦していないよ。恨んでもいる。でも、どうでも良くなったのかも」小林は、欠伸をして、俺の方を向き、笑う。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「コイツの子供が、病気で……」
「それは関係ないよ」俺が言い終わる前に、否定する。「関係ない、と思う」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「まあ、どっちでも良いさ」
「そう、どっちでも良いんだ」
力不足のエアコンが、意気地のない音を立てている。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「そろそろ、帰ろうかな」小林は、立ち上がる。「起きたら、久我澤くんに、よろしく。それと、同窓会、誘ってくれて、ありがとうって。凄く、楽しかった」
「あぁ」
玄関まで、彼を見送る。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「小林、お前、今どこに住んでるの?」
「東京だよ」
「いつ帰るの?」
「今日のお昼に」
「じゃあ、まだ時間あるじゃん」
「でも、ホテルに荷物があるから」
「あれ、実家は?」
「僕の親、もういないんだ。もともと片親だったし」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
「そうだっけ」
「そうそう。じゃあ、お水、ありがとう」
「いや、良いけど」
「お邪魔しました」
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
バタン、とドアが閉まる。俺はリビングに戻って、相変わらず眠っている久我澤を見る。パソコンからは、古いフォークロックが流れていた。ライク・ア・ローリングストーン。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
https://t.co/5f4YPRV0sE
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
俺は彼女と話そうと思い、携帯電話を開く。
けれど、まだ朝だ。
とりあえず、そこで石のように寝転がっている男が起きるまでは、
待つことにしよう。
#akiyonaga
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
おわり。
#akiyonaga pic.twitter.com/jnUD4S34RZ
— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 10月 7
秋の夜長: (What's the Story)Autumnal Nights? (ライトスタッフ!)
- 作者: 王木亡一朗
- 出版社/メーカー: ライトスタッフ!
- 発売日: 2015/11/29
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
関連作です。