秋の夜長 リバイバル「無視」
夏の魔物応援企画「秋の夜長」
第二夜「無視」
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 9月 28
結婚して早一年。家の中にずっといると気が狂ちゃうから、と言って、仕事を続けてきた彼女。彼女は、僕が言うのもなんだけれど、とても優秀で仕事ができる。結婚後も以前同様、いや以前にも増して仕事をこなしている。
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当然帰りは僕と同じか僕より遅いことも。それでも、僕が家事をやろうとすると、いいから座っていて、と拒否される。僕も長年一人暮らしをしていたので、一通りの家事は出来るつもりだ。けれど彼女は、どうしても僕にやって欲しくないらしい。
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もしかしたら、僕の家事は雑すぎるのかもしれない。そう思って、僕の家事のなにがダメなのかを尋ねてみた。けれど、そうじゃないという。
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「あなたの家事がどうこうじゃなくて、私が全部やりたいの、ちゃんと」
「でも、君だって仕事をしているし、普通は分担するんじゃないかな」
「ごめんね。でも、私はそうじゃないの」
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遅くなることが前もって判っている場合などは、休みの日に食事を大量に作って、それを冷凍して温めて食べていた。仕事が忙しい日が続いても、彼女は空き時間を上手く使い、洗濯や掃除をこなしていく。彼女はとても楽しそうだ。
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どうやら、彼女には家事に対して譲れない流儀があるようなのだ。だから、それを僕が邪魔すると不愉快なわけだ。彼女が彼女のやり方でやるからこそであり、僕なんかが手伝って仮にそれが役に立ったとしても、それは流儀に反するというわけだ。
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彼女には彼女の描く理想の生活というものがあり、それをこなしていくことで、彼女は満足なのだろう。
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ただ、やってもらうばかりでは僕も申し訳ないので、何か違う面で彼女をサポートできないかと考える。家事が好きなら、いっそのこと専業主婦にしてあげたいが、情けなくも経済的に難しかった。
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なんとなく歯がゆいけれど、家事をすべてやってくれるのは、それはそれでありがたいし、少しも手伝えないことを除けば、大きな不満もない。けれど、僕が少し引っかかるのは、彼女のその行為が、病的とも思える瞬間があるからだ。
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ほんのちょっとでも手伝うと、烈火の如く怒るのだ。それが、僕が玄関で脱いだ靴を揃える、という些細なことであっても。でも、何もしなければニコニコとしている。僕は、彼女の機嫌を損ねないように、一切の家事を手伝わなかった。
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そんなある日、お義父さんから電話が入る。日曜日の午前中で、内容はお義母さんの危篤を知らせるものだった。
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僕は驚いた。何故なら、お義父さんとお義母さんは、彼女が六歳の頃に離婚していて、それ以来会っていなかったらしい。音信不通と聞いていた。どうして離婚したのかは、彼女もお義父さんも教えてくれなかった。
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僕が彼女に電話の内容を伝えると、彼女は驚いたような、怯えたような、そんな顔をした。
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お義父さんからは、「芽衣子が来たくないと言うならそれでもいい。一応知らせただけだ」と言われていたけれど、僕は、行こう、と彼女に言った。
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病院に着き、お義父さんに挨拶をする。彼女は家を出てから一言も喋らなかった。病室に入り、酸素マスクのようなもの付けているお義母さんを三人で見下ろす。
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初めて会ったけれど、五十代とは思えないくらい若く見える。髪も明るいし、爪も色とりどりだ。けれど、全身に管が繋がれているその姿は、見るに耐えなかった。
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彼女は、ベッドの脇の椅子に座り、お義母さんの顔を見つめていた。悲しんでいる様子はない。ただ無表情のまま、じっと見つめている。
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「虎丸くん、ちょっと……」お義父さんに名前を呼ばれて、僕は病室を出る。「芽衣子、なにか言っていたかな?」
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「いえ、特になにも。あの人が、お義母さんなんですね。若く見えますね」
「あぁ、昔から、ああでな。派手な格好が好きだった。整形も何度もしていたし」
「あぁ、なるほど」
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病室に戻ると、彼女はお義母さんの手を握っていた。お義母さんの手は、とても綺麗だった。でも、外側は綺麗に見えても、内側はボロボロらしい。お医者さんが言うには、荒んだ生活と度重なる整形手術のせいで、もうほとんど手遅れらしい。
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 9月 28
彼女は泣きながら、何かを必死に語りかけていた。何度も何度も。でも、お義母さんは応えない。無理もない。意識が無いのだ。
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でも、僕は。
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なに無視してんだよ、と心の中で思った。
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無視してんじゃねーぞ。おい! 無視すんな!
聞いてんのか! 無視すんな!
無視すんな! クソババァ!
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— 王木 亡一朗 (@OUKI_Bouichirou) 2015, 9月 28
無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!無視すんな!
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と、心の中で、繰り返した。
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おわり。
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秋の夜長: (What's the Story)Autumnal Nights? (ライトスタッフ!)
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