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少年法

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 幼い頃、少しの間だけ、猫を飼ったことがある。

 母が友人から貰ってきたもので、正確には憶えていないが、雑種だったと思う。母は、猫が好きで、ずっと飼いたいと思っていたらしい。僕が幼稚園に上がり、ある程度手がかからなくなったから、貰ってきたのだろう。

 市販の缶詰だと太るからと、スーパーで買った鶏のささみをお湯で温めたもの(おぼろげな記憶だが)を、与えていた。四六時中構っていた。きっと嬉しかったのだろう。

 僕はとても恐がりだったので、突然やってきたその動物に、困惑していた。けれど、その猫は、とても大人しく、頭も良かったし、子猫ではなかったので、躾も済んでいた。柱で爪研ぎをするのが、難点といえば難点だったが。

 母と一緒に、その猫にマタタビをやった。体をくねらせるその姿を見て、僕はだんだんと好きになっていった。

 それでも僕は、あまり構わなかったと思う。けれど、独りで炬燵に入っていると、そっと隣に寄って来る。慣れてきたし、健気(?)で、可愛いので、頭を撫でたりしていた。

 溺愛している人よりも、興味なさそうにしている人の方に寄っていくのが、猫の習性だと、母からきいた。本当かどうかわからないが、確かに自分から寄ってくるのは、母より、僕の方が多かったと思う。

 

 けれど、たまに帰って来る父は、猫が嫌いだったらしい。父が近所の犬を撫でている姿は記憶にあるから、動物嫌いだという印象は無い。

 家にいる時の父は、猫と同じ部屋にいる事を、頑に拒んだ。僕は、父が家にいる時は、猫と一緒に他の部屋へ移った。けれど、ちょこまかと動いて父のいる部屋の方へ行ってしまう。

 父は、時に猫に対して怒声を浴びせながら、首根っこを摘んで、自分のいる部屋から追い出していた。どうしてそこまで小さな動物に対して酷いことが出来るのか、僕にはわからなかった。ものすごい剣幕で怒るのだ。時には、目や顔を真っ赤にして怒っていた。正直、僕はそんな父の姿を見るのが、とても怖かったし、嫌だった。

 ある時、母の迎えで家に帰ると、父がいた。急な予定変更で、仕事が無くなったという。母は元気が無かった。何故かは、すぐにわかった。

 猫がいないのだ。

 僕が、猫はどうしたの、と父にきくと、父は、知り合いにあげた、と言う。

 僕は悔しくて悲しくて、泣いた。何も言い返せなかった。

 どうして、そんな酷いことが出来るのだろう。この時から、次第に父への不信感が募っていったように思う。

 父が仕事に行ってから、僕は母に、父を責める言葉を言い続けた。母は何も言わなかった。ただ、私だって、あの猫は、好きだったのよ、と。

 

 それから数年経って、父が出て行くことになった時に、私は、その時のことを父に言った。

 僕と母が可愛がっていた猫を、どうして突然、他人にあげたのか。お別れも出来なかった。そもそも、本当に知人に渡したのか。強く、詰問した。

 しかし、返ってきた答えは、意外なものだった。いや、考えればわかったことかもしれない。

 父は、猫アレルギーだったのだ。

 母も、実際に猫を飼うまでは、知らなかったらしい。毎日家にいるわけじゃないし、たまになら、騙し騙し共生出来ると思ったがダメだった、と。

 

 そう、言うなれば、父も被害者だったのだ。

 そんなことも知らずに、気付かずに、僕は父を責めていた。長年、恨んでもいた。

 本当は、僕の方が加害者だったのだ。

 なぜ、きちんと事情を説明してくれなかったのか。そう思ったけれど、小さかった自分が、それを理解出来たかどうかは、わからない。あの目を真っ赤にした怒気に満ちた父の表情は、アレルギーのせいだったのだ。それを、理解出来ただろうか。

 結局、猫の件に関しては、父が悪者になることで、丸くおさめたのだ。