読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Category of Happiness

幸せのカテゴリー

秒速5cmくらいで

Ads by でんでんアドネット

 新海誠監督の「秒速5センチメートル」を、僕は三回は観ている。一度目に観た時は、あまり意味がわからなかった。特に三話目。どうして、あそこで山崎まさよしの歌が流れて、終わるのか。唐突すぎやしないか。二回目に観た時は、ちょっとだけ分かった気がした。でも、違和感が残るのは、やはりあの構成だ。一話目、二話目のボリュームに比べて、三話目は、殆ど歌なのだ。三回目に観たときに、ピーンと来た。少しだけ。

 

 この作品は、いわゆる連作短編という形式で作られている。「桜花抄」「コウスモナウト」「秒速5センチメートル」の三作だ。しかし、これは普通の連作短編ではない。物語としては、本当は違う形式なのではないか、という仮説を僕は立てた。

 

   その前に、一つ確認しておきたいことがある。それは「最終回でOP曲が最後に流れる1クールのアニメ」という概念だ。

  テレビ放映されてるアニメ作品の場合、細かい違いはあれど大方構成は以下の通りだ。

・(アバンタイトル

・OP曲(オープニング)

・Aパート

・Bパート

・ED曲(エンディング)

・予告(Cパート)

 

  OP曲は、アップテンポだったり、勢いがある曲であることが多い。それに対してED曲は、OP曲に比べて、しっとりとした、または落ち着いた曲であることが多い。

  そしてOP曲の歌詞または、そこで流れる映像は、物語のその後の展開が予告されている、伏線が貼られている場合が多い。(余談だが、僕は中学生の頃、原作未読でアニメのワンピースを見てる時に、OP映像にわりと初めの時点で、サンジが出てきて、このキャラはいつ出てくるのだろう、とワクワクしながら見ていた)

  そういった1クールのアニメの最終回、OP無しで本編が始まり、クライマックスを迎えた後、最後にOP曲が流れる。よくある演出だが、ここで多くの視聴者はグッとくる(多分)歌詞または映像で予告されていた展開や伏線が、走馬灯のように蘇り、カタルシスを得るのだ。そうでなくても、あの「最終回のラストにOP曲が流れる演出」に、グッとこない人は少ないはずだ。

 

  以上のことを踏まえて、僕が「秒速5センチメートル」の構成に対して立てた仮説を説明しよう。

 あの作品の連作短編という形式は、「最終回でOP曲が流れる1クールアニメ」の変型なのである。

  つまり、第一話の「桜花抄」は、タカキとアカリの、いわば「小さな恋のメロディ」的な物語であり、親の都合で転校続きの二人が出会い、惹かれ、そして別れるまでの1クールの物語なのだ。本編では、その前半はダイジェスト、そして、タカキがアカリに会いに行くという最終回なのだ。

  紆余曲折を経て、二人は再開を果たし一夜を共に過ごす。そして翌朝、駅のホームで別れる時、あの電車のドアが閉まったところで、OP曲が流れて、この二人の物語は終わるはずだったのだ。「手紙、書くから」と、その後を予感させつつも、あくまで二人の「小さな恋のメロディ」は終わるはずだった。終わるべきだった。「あなたはきっと、大丈夫だと思う」という言葉は、最終回にヒロインから主人公への、救い、または祝福の言葉になるはずだった。

  でも、このシーンでOP曲は流れなかったのだ。そして、この「小さな恋のメロディ」的な1クールのアニメは最終回を、その最終回らしさで終えることが出来ないまま、次のクールのアニメが始まってしまう。それが第二話「コスモナウト」だ。

 

 しかし、この「コスモナウト」は、「1クールアニメ」としては破綻してしまっている。なぜなら、主人公のカナエが片思いを寄せる相手は、第一話の主人公であるタカキなのだ。相手がタカキでなければ、この「コスモナウト」は、東京から転校してきた、ちょっと陰のある男の子に恋するサーフィン少女の物語として成立しただろう。告白が成功するにせよ、失敗するにせよだ。しかし、相手が第一話のタカキでは成立しない。なぜなら、このタカキとは「最終回でOP曲が流れずに物語を終えることが出来なかった人物」だからだ。現に、この第二話でのタカキは、決して送ることのないメールを書き続けている歪んだキャラクターになってしまっている。

 こうして、第一話のラストでOP曲が流れなかったばかりに、物語は歪み、誰も救われないまま、第二話も一応のクライマックスだけを迎え終わってしまう。

 

 そして、第三話。ここでは再び第一話の主人公であるタカキの視点で物語は始まる。この第三話の冒頭では、踏切の上で、あの人とすれ違う。

 タカキは、昔の物語を終えることが出来ないまま、長い年月を過ごしてしまった。孤独な心を抱えたまま、大人になってしまった。ふとコンビニで目にした雑誌の記事がきっかけで、少し昔のことを思い出す。そして、ここでようやく、ようやく、曲が流れるのだ。

  あの日、あの瞬間に流れるはずだった曲が。あの時に流れていれば、「小さな恋のメロディ」の最終回を終えれるはずだった曲が、ようやく流れ出すのだ。歪んだ物語を、長い時間の隔たりを越えるかのように、フルコーラスで流れるのだ。

 そして、場面は第三話冒頭へと戻る。あの人とすれ違い、振り返る。しかし電車が来てしまい、相手の顔は確認できない。やっと電車は過ぎ去るが、踏切の向こうには、もうあの人はいない。

 ただ、タカキはこの瞬間に、ようやく悟るのだ。自分の物語は、あの日、あの時、あの場所で、終わっていたということを。「あなたは、きっと大丈夫だと思う」というアカリの言葉は、この時にようやく、タカキに届いたのである。

 曲が流れずに終わらなかった物語は、時間と空間を経て、山崎まさよしの「one more time,one more chance」まるまるフルコーラスを費やし、ようやく終わるのだ。

 


「秒速5センチメートル」予告編 HD版 (5 Centimeters per Second) - YouTube

 

秒速5センチメートル 特典 「One more time, One more chance」 山崎まさよ ...