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幸せのカテゴリー

世話を焼いてくれる人がいるというのは、もしかしたら魔法のような奇跡なのかもしれない。

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 朝起きたら、天使と名乗るヘンテコな格好をした奴が枕元に座っていて、何でも一つだけ願いを叶えてくれるという。

  とうとう俺もこの手の輩が見えるくらいヤバイ奴になっちまったか、と溜息をつきかけたけど、この自称天使が急かすので、俺も慌てて願い事を考える。

 

 いざ願い事を、と言われると咄嗟には思いつかないものだ。欲しい物……、なんだろう? プレステ4? いや、まぁ、確かに欲しいけれど、そんなの天使に貰ったところで、何だっていうんだ? まぁ、そうだな、だったら金で良いのかも。あっ、でも金っていくらくれるんだろう? 一億? いや、俺のことだから一億なんてすぐに使ってしまうだろう。これといって趣味もないくせに、浪費にかけては才能があるからな、俺は。サラリーマンの生涯賃金が確か三億円だと聞いたことがある。じゃあ、三億か? いや、そんな金、ポンと貰ったところで、俺の天性の怠け者体質からして、すぐ使い切ってしまうだろ。じゃあ、十倍の三十億。うーん……、額じゃないな。金だけあっても、俺の人生は、きっと好転しない。


  仕事を辞めて細々と貯金を切り崩している生活。生まれてこのかた、何かに夢中になったこともない。金は全て、生活と下らない遊びに消えて行く。ゲームとか酒とかタバコとか。色々と面倒くさそうだから車を欲しいと思ったこともないし。昔は彼女もいたけれど、さっさと愛想をつかして消えてしまった。

  早くしろよ、と自称天使がいう。ちょっと待ってくれよ。願い事一つだけだろう? 誰だって慎重になるさ。金は欲しい。けれど、そうじゃなくて、やり直すチャンスが欲しい。って、こんな朝っぱらから、ヘンテコな格好をしている自称天使の前で俺は何を真剣に悩んでいるんだ? 笑えてくる。

  そうだ、金を稼げる人間になればいいんだ。年収何十億も稼げる職業に就けば、金も手に入るし人生にも張りが出る。いや、これも額じゃないな。何かやりがいのある仕事を。そうだ。そもそも仕事が続かないのは、仕事がつまらないからだ。何がいいだろう? やりがいのある仕事……、なんだ? 俺は、何に興味がある? 子供の頃、何になりたかった? 宇宙飛行士? 医者? 警察官?
 
「なぁ」と、俺は天使にきく。「やりがいがあって、金も稼げる仕事って何かな?」
 天使は、は?という顔して俺を見る。「やりがいってのはさ、それぞれがそれぞれの仕事に自分で見出して行くものだから、お前みたいなやつは、例えば医者になって人の命を救っても、そんなの感じられないと思うよ」
 
 なんだよ、随分と口の悪い天使だ。天使ってこんなんだっけか? どうして、これから願いを叶えてもらおうとしている俺に、こんな辛辣なことを言うんだ? 願いを叶えてもらう時ってのは、こう、もっと祝福に満ちているべきだろう? ん? 待てよ、この天使、怪しいぞ? わかった! これ、たまによく見るあのパターンだ。願い事を叶えてくれるっていっても一瞬でポンと叶えてくれるわけじゃなくて、例えば俺が宇宙飛行士になりたい、とか言えば、どこからともなく家庭教師とかコーチみたいな奴が現れて、半強制的に様々な努力をさせられて、スゲー苦しい思いをして、やっと宇宙飛行士になれる、みたいな、甘くないパターンだ! 三億円くれと言ったら、ものすごくキツい労働を延々とやらされて、よぼよぼのジジイになったくらいにようやく三億円貯まってるみたいな、そんなパターン。悪魔じゃん、それ! 星新一かよ!  だからこの天使はこんなに尊大なんだ。俺ちゃん、ナイス慧眼☆

 決まった? と、天使が言う。いや、まだ待ってくれよ。俺は考える。よくよく考える。俺みたいな人間でも、そうやって努力というか極端なことを行動に移せば、まだ出来ることって意外にあるんじゃないか? 一人でやるから、怠けてしまうだけで、無理矢理にでも引っ張りだされて、勉強でも労働でもやらせられれば、俺にだって、何かしらの結果は残せるんじゃないのか? いや、でもそんな奴隷みたいな生活嫌だよな……。
 
 奴隷? じゃあ、今の俺はなんなのだろう?
 
 天井が見えた。自分の部屋の。そう、目覚めた。夢オチかよ。
 俺は思いついた願い事を自嘲気味につぶやく。
 
「もうちょっと寝かせてくれ」